未来を耕す:カーボンファーミングで地球温暖化にメスを入れる

カーボンファーミングは、環境再生型農業(リジェネラティブ・ファーミング)とも言われ、地球温暖化に有効な新しい農業です。
土壌に炭素を固定し、大気中の二酸化炭素を減らすこの農業技術は、ゲイブ・ブラウン氏によって、体系的にまとめられました。
彼はアメリカのノースダコタ州で2,000ヘクタールの農場・牧場を営んでいます。
アメリカ本土の土質や、大規模農園を大型機械を用いて運営する農業スタイルは日本とは異なるものの、土づくりを行う上で多くの示唆を与えてくれます。
「真に生きた土」をつくる野心的な土壌のバイブル
「人が土を育て、土が人間を育てる。土をケアする営みは、こんなにも奥深く切実で面白い」
ゲイブ・ブラウン, 土を育てる 自然をよみがえらせる土壌革命, NHK出版, 2022
記事の目次
土の健康の6原則
- 第1の原則:土をかき乱さない
- 第2の原則:土を覆う
- 第3の原則:多様性を高める
- 第4の原則:土の中に「生きた根」を保つ
- 第5の原則:動物を組み込む
- 第6の原則:背景
第1の原則:土をかき乱さない

ポイントは以下の3つです。
- 耕すと土壌の構造(団粒構造や孔隙)が壊れてしまい、土壌生物の住処をかき乱してしまう
- 大量の化学肥料や除草剤を撒き続けることで、土壌の構造と生態系の働きが破壊されてしまう
- その結果、土壌内の有益な微生物や真菌、バクテリアの数が減少し、土壌生態系の機能劣化が生じてしまう
【補足】
不耕起については、自然栽培、自然農、協生農法などでも言及されており、決してマイナーな手法ではなくなってきています。
「土が変わるとお腹も変わる 土壌微生物と有機農業」では、耕起と締固めの問題点として、通気性の悪さと酸素不足、真菌が優勢な土壌からバクテリア優勢の土壌へと変化、嫌気性細菌の増殖による根腐れや有益な微生物の減少による土壌の無菌な「泥」への劣化が引き起こされることが述べられています。
「誰でも簡単にできる!川口由一の自然農教室」の自然農の三大法則として、1.耕さない、2.肥料・農薬を用いない、3.草や虫を敵としないを挙げており、「全面的に耕すと一時的に土がふかふかになりますが、すぐに土が硬くなり、また耕さなければならなくなる悪循環に陥る」と言われています。
「腸と森の土を育てる(桐村里紗)」では、耕起、施肥、農薬の使用をせず、生態系の自己組織化に任せる協生農法について紹介されています。
第2の原則:土を覆う

ポイントは以下の3つです。
- 天然のよろいをかけることで、土は風や水による流出から守られ、水分の蒸発や雑草の発芽も抑えられる
- 一方で、地中の虫や微生物が増加すると地表の有機物の分解スピードが速まるため、いかに新しい覆いを供給し続けるかが課題
- その課題解決には、分解されづらいCN比の高い有機物の投入が有効である
アメリカでは、土を耕してしまっている農地は、例外なく風で土が舞い上がり、土壌流出(風食)は今や歴史的なレベルで蔓延しているようです。
【補足】
炭素源を多く含む有機物の投入は、生物的窒素固定のためのエネルギー源が増えることになり、土壌の窒素供給力を高める重要な手段となります。
慣行栽培では否定的であったC/N比の高い有機物の投入は、自然栽培では逆に推奨されます。(杉山修一著「ここまでわかった自然栽培」)
第3の原則:多様性を高める
ポイントは以下の5つです。
- 植物と動物の多様性を確保する
- 炭素固定の多いもの、窒素固定するマメ科など、それら一つ一つが土の健康を保つうえで重要であり、多様性によって、生態系の機能は強化される
- ミネソタ大学の環境学者デイビッド・ティルマン博士の研究によると、植物の多様性は7~8種類に達すると相乗効果が生まれる
- 多様性によって、植物の健康状態も、昨日も、収量も向上する
- イネ科、マメ科、広葉作物など、異なる機能群の植物を増やすとよい
【補足】
多様性は、作物の病気を予防する観点からも重要です。
モノカルチャーを長期間続けると、その作物に特有の病原菌が増加し、淘汰され多様性がなくなります。
自然は特定の生物種で特定のエリアを支配させようとはしません。病原体は多様な農業生態系の中では宿主を見つけられないようです。
作物が病害虫被害を受けるのは、不自然な景観を自然が再び健全化するための過程ということでしょう。
第4の原則:土の中に「生きた根」を保つ
ポイントは以下の4つです。
- 年間を通し、土の中にできるだけ長期間「生きた根」を保つ
- その大きな目的は、菌根菌の増加である
- アーバスキュラー菌根菌(AM菌)は、宿主となる植物の根の延長線のように菌糸を地中に伸ばし、宿主が必要とするミネラルなどの栄養素を取り入れ、代わりに宿主の根から分泌される炭素化合物を受け取る
- AM菌の存在によって、宿主植物の内部で抗酸化物質やさまざまな栄養素の生成もうながされるため、人間の健康にとっても極めて重要な存在である
【補足】
吉田太郎著「土が変わるとお腹も変わる 土壌微生物と有機農業」では、もう少し詳しく菌根菌について書かれています。
最も高密度な菌根菌がみられるのは、多年生の草木が生い茂る草原ですが、わずか4㎡の上部10㎝の土壌にある菌を全部つなぎ合わせると、赤道を1周する長さにまで及びます。
菌根菌は宿主の植物からの滲出液(しんしゅつえき)と引き換えに栄養分を運んでおり、水の提供でも重責を担っています。
第5の原則:動物を組み込む

ポイントは以下の3つです。
- 自然は動物なしに成り立たず、農場に家畜を組み込むことで多くのメリットがある
- 動物が植物を食むことによって植物が刺激され、土により多くの炭素が送り込まれる
- 家畜だけでなく、花粉を運ぶ虫や鳥、害虫を食べてくれる益虫、ミミズや微生物にも住処を提供し、生態系を支えてもらう必要がある
【補足】
「ニワトリと暮らす」では、ニワトリの飼い方やニワトリ小屋のつくり方などが紹介されています。
いきなり牛や豚は難しいかもしれませんが、ニワトリなら昔から飼われていましたし、ハードルは低めかもしれません。
第6の原則:背景
ポイントは以下の2つです。
- その土地の気候に合った農作物を育てる
- 経済的に無理のない農業を営む、資金繰りを勘案する
カバークロップ(緑肥)の有用性

「土を育てる」自然をよみがえらせる土壌革命では、カバクロップの有用性についても述べられています。
土の健康第2、第3、第4原則の観点からも有用ですが、カバークロップの利点・要点は以下の通りです。
- カバークロップを播くと畑の炭素量が増える
- 何種類もまとめて播く
- 地域で育ちやすい品種を調べる
- 目的に合う品種とブレンド比率を選定する
- 花をつける品種を混ぜることで害虫対策にもなる(バンカープランツの用途)
【補足】
農研機構からは緑肥利用マニュアルが発行されており、「持続的農業の土づくり」でも、緑肥の上手な使いかたとして、減肥への影響や土づくりへの効果について触れられています。
最後に
カーボン・ファーミングは、すでに多くの場所で成功を収めています。社会課題の画期的な解決策にもなるでしょう。
一方で、技術の普及や初期投資の資金調達、教育の機会など課題も存在します。これらの課題を克服することによって、カーボンファーミングは持続可能な未来を実現するための有効な手段となりそうです。
私たち一人一人が持続可能な農業を推進する政策を支持し、その農家を支援することが、地球を救うための革命の第一歩になるかもしれません。


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