マーケティング5.0
前回は、ハイパワー・マーケティングを取り扱いました。
そもそもマーケティングとは何だろうか?との疑問が出てきたので、調べてざっくりとまとめました。
マーケティングとは、簡単に言うと、「売れる仕組みづくり」です。その分野では、フィリップ・コトラーさんが有名らしいので、著作をいくつか拝読しました。
コトラーさんがマーケティング3.0を発表したのが2010年で、2022年にはマーケティング5.0を発表しています。売れる仕組みづくりは、時代や技術の進歩と共にアップデートされているようです。
それではまず、マーケティング1.0~5.0の概要を示します。

記事の目次
マーケティング1.0(製品中心の時代)
- 時期: 1950年代~1980年代
- 特徴: 企業は最高の価値、完璧な製品・サービスを作ることにこだわった。最善の4P、すなわち製品(Product)、価格(Price)、流通(Place)、プロモーション(Promotion)に重点が置かれた。
- 目的: 売ること、消費者に製品を「押しつける」こと
マーケティング2.0(消費者中心の時代)
- 時期: 1990年代~2000年代
- 特徴: 消費者のニーズや欲求を中心に考えた。万人受けする商品はもうないので、どの層向けにどのような商品を届けるか、STP(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)が大事となった。
- 目的: 消費者の満足を追求し、関係を築くこと
マーケティング3.0(価値中心の時代)
- 時期: 2000年代~2010年代
- 特徴: 消費者は単に製品やサービスだけでなく、企業の「価値観」や「社会的責任」にも関心を持つようになった。企業はMVV(ミッション、ビジョン、バリュー)を強調し、消費者とのつながりや共感を呼び起こすことが大事となった。
- 目的: 消費者との感情的・精神的なつながりを作ること
消費者に企業や製品のミッションをマーケティングするためには、企業は変化というミッションを掲げ、それを軸に感動的なストーリーを築き、ミッションの達成に消費者を参加させる必要がある。
フィリップ・コトラー、コトラーのマーケティング3.0、朝日新聞出版、2010
マーケティング4.0(デジタル時代の消費者中心)

- 時期: 2010年代~
- 特徴: インターネットやSNSの普及により、オンラインとオフラインが融合。消費者は情報をインターネットで簡単に検索し、SNSで意見を交換する。企業はデジタルチャネルを活用し、消費者との関係を築く必要がある。消費者と共に製品開発を進めていくことから、4Pから4C(共創=Co-creation、通貨=Currency(価格が変動的)、共同活性化=Communal activation、会話=Conversation)の時代へ。
- 目的: 消費者とのオンラインでの関係強化、パーソナライズ化(消費者一人一人の好みに合わせる)の追求
マーケティング5.0(テクノロジーと人間の融合)
- 時期: 2020年代~
- 特徴: AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)、ビッグデータ等を活用して、より高度にパーソナライズ化された体験を提供する時代。企業は消費者の個別ニーズに対応することが可能になり、感情や倫理観だけでなく、テクノロジーを駆使したマーケティングが求められる。
- 目的: 人間中心でテクノロジーを活用し、よりパーソナライズ化された価値の提供
ソーシャルメディアの投稿、取引履歴、その他の行動データなどから、企業は消費者の趣向や考えを類推することができるようになりました。そして、よりその人に合うであろう商品やサービス(Amazonのおススメ商品やYoutube動画等)を提案できるようになりました。
これは便利と思う一方で、見たい情報ばかり見て、見たくない情報は遮断されてしまうことになります(フィルターバブル)。その結果、自分の考えがある方向に凝り固まってしまう恐れがあります…。
ブランドストーリーの構成要素

マーケティング3.0のところで、「ストーリー」に関する記述が出てきました。消費者の共感を呼ぶ魅力的なストーリーには、3つの重要な構成要素があります。
キャラクター:どのような社会問題に取り組んで、どのように人々の生活を変えるのか、企業の象徴です。例えば、ディズニーは家族の理想、ウィキペディアは協働の象徴とされているそうです。
筋書き:チャレンジ型(弱い主人公が困難に打ち勝ちながら成長し、最終的にラスボスを倒す:大方の少年マンガ)、コネクション型(人々とのつながりを作る:Facebookなど)、クリエイティブ型(優れた能力で問題を解決する:名探偵コナンなど)の3つのタイプがあります。
比喩:バランス、変化、旅行、容器、つながり、手段、コントロールなどの比喩があります。コントロールの例だと、消費者は自分たちには病気の広がりをコントロールすることはできず、コントロールできるのは、自分の免疫だけだと気づく、などが考えられます。
(新型コロナの時のソーシャルディスタンス、ステイホーム、ロックダウン…懐かしいですね…。)
カスタマー・ジャーニー
カスタマー・ジャーニーとは、「顧客が商品と出会ってから購入するまでの道筋」のことです。
古くから提唱されているのがAIDAで、注目(Attention)、興味(Interest)、欲求(Desire)、行動(Action)の4つで構成されます。企業はそれに則って、まず、広告やキャッチコピーで消費者の注意を惹き、興味を掻き立て、欲求を強化して、最終的に商品を購入するという行動を促します。
しかし、企業は消費者に複数回商品を購入してもらいたいと思っていますが、このフレームワークだと商品の購入が一回切りになってしまいます。そこで、また別の人が「再行動」という概念を取り入れた、4A(認知=Action、態度=Attitude、行動=Act、再行動=Act again)を提唱しました。
消費者は、ブランドの事を知り(認知)、好きか嫌いになり(態度)、それを買うかどうか決め(行動)、リピート購入する価値があるかどうかを判断する(再行動)という具合です。
このフレームワークでは、消費者が自分で全ての判断を下していることになります。しかし、現代はSNS、Amazonのレビュー、Yahooコメント欄など、他者の意見に触れる機会が多く、それらを見てから判断することも多いでしょう。そこで、マーケティング4.0では、4Aが5Aに修正されました。
5Aとは、認知(Aware)、訴求(Appeal)、調査(Ask)、行動(Act)、推奨(Advocate)です。
消費者は、広告だけでなく他の人からおすすめされたりして、たくさんのブランドを「認知」します。感動要因を持つ印象的なブランドは高評価となり、心に響きます。これが「訴求」段階です。
その後、消費者は好奇心に駆り立てられて、そのブランドについて人に聞いたり、レビューを見たり、値段を調べたりして「調査」をします。調査の結果、納得すれば、商品を購入するという「行動」をとります。そして、そのブランドの良さが分かり愛着がわけば、他の人へ「推奨」します。
実際は、訴求と調査、調査と行動の間など、各段階で行ったり来たりするので、5Aは一本道ではなく、らせん構造をしているとコトラーさんは言います。商品を買ったこともない人が、他人に推奨することも起こり得ます(笑)
いい評価をもらえるとありがたいですが、悪評がたつと大ダメージを受けます。とはいえ、他者の影響の結果をすべて管理することはできません。できることは、噓をつかない、誠実に対応する、精一杯頑張るなど、人として基本的なことでしょうか…。
マーケティング4.0の究極の目標は、顧客を認知から推奨に進ませることである。
新しい顧客体験(CX)

DXはデジタルトランスフォーメーション、GXはグリーントランスフォーメーションですが、CXはカスタマーエクスペリエンス(顧客体験)のことです。商品を購入する、その瞬間の体験だけでなく、購入の検討から購入後のアフターサービスまですべてを含んでいます。
カスタマー・ジャーニーのところで5Aについて触れましたが、マーケティング5.0では、ロボット(例えばファミレスの配膳)やAI(チャットボット)などのテクノロジーが駆使されます。他にもポケモンGOのような拡張現実技術や、VRゴーグルを用いた仮想現実で没入感を体験できるなど、さまざまな技術が登場しました。
現代では、多くの商品がすぐにコモディティ化(その辺の他の商品と区別がなくなること)するので、企業はあの手この手で消費者を繋げとめようとしています。
製品と接する新しい方法が、今では製品そのものより魅力的になっている。競争に勝つための鍵は、製品にあるのではなく、顧客が製品をどのように評価し、購入し、使用し、推奨するかにある。
最後に
マーケティング1.0~3.0が古くて全く使い物にならず、4.0、5.0が絶対に正しいんだ!というわけではありません。それぞれで参考になる部分は多々あります。
マーケティング3.0で出てきた、魅力的なストーリーを消費者とともに創り上げることは今でももちろん有効でしょうし、新しい技術を使って今までにない顧客体験を提供できれば、他社と差別化することもできます。
ビジネスは、「クライアントの問題解決」が基本ですが、様々なマーケティング方法を知ることで、より意義深いビジネスが可能になるのかもしれません。


