植物ホルモンと生長の関係

植物は、光と水、空気(二酸化炭素)があれば光合成をして生長することができますが、植物ホルモンがその生長速度を左右します。植物ホルモンを最大限に活性化させる方法を知ることで、農薬や肥料に頼らず作物を育てることができるかもしれません。

ここでは、まず代表的な7つの植物ホルモンについて紹介し、それらが果樹の生長にどのように関わるかを説明します。最後に、その生長サイクルを野菜栽培に役立てる方法を紹介します。

今回参考にした書籍は以下の通りです。

植物ホルモン

ジベレリン:元気ホルモン

根の先端、若い葉、未熟な種子で作られます。この植物ホルモンによって、植物の生長が促進します。シャインマスカットなどの種なしブドウを作るときにも使われます。

機能

  • 節の間や葉を長く伸ばす
  • 着果させ、果実を大きくする
  • 休眠している種子や樹木を目覚めさせる
  • 花芽の形成を阻害する

サイトカイニン:花ホルモン

根の先端や未熟な種子で作られます。植物の若返りのホルモンとして知られています。

機能

  • 細胞分裂がさかんになる
  • カルス(切断面などの植物の傷をふさぐ組織)が作られる
  • わき芽を伸ばす
  • 気孔を開き、若さを維持する
  • 花芽を作る
  • 結実して幼い果実を大きくする

オーキシン:根っこホルモン

茎や根の生長点、葉、種子で作られます。この植物ホルモンがホルモン活性の起点となります。

機能

  • 重力や光の方向を探知する
  • 根を伸ばす
  • 頂芽(茎の先端にある芽)を伸ばす
  • カルス(植物の傷をふさぐ組織)が作られる
  • 果実の糖度を上げる

アブシシン酸:成熟&ストレスホルモン

根の先端、種子、葉で作られます。生長ではなく、植物の成熟に寄与します。

機能

  • 乾燥している時に気孔を閉じ、蒸散を抑える
  • 過酷な環境に耐える
  • 種子や芽の休眠を促す

エチレン:老化&虫よけホルモン

細根、果実、生長点、老化組織で生まれます。植物ホルモンの中で唯一の気体です。

機能

  • 果実の成熟を促す
  • 離層の形成を促す
  • 縦方向の伸びよりも締まった生育にする
  • 果実を横に太らせる
  • 酸化エチレンで病害虫から守る

ジャスモン酸:虫・腐生防護ホルモン

植物体内のどこでも作られます。虫に食べられたり腐生菌に感染すると生まれます。酢をかけるとこのホルモンが発生します。

機能

  • 病害虫から体を守る
  • 果実の成熟を促す
  • 離層の形成を促す
  • 老化促進
  • 休眠打破

サリチル酸:寄生菌防護ホルモン

植物の葉や茎で作られます。植物の免疫システムを強化する役割を持ちます。

機能

  • 病原体に対する防御力を高める
  • 過酷な環境に耐える
  • 葉の老化や落葉を遅らせる

果樹の生長サイクル

STEP

ジベレリン・サイトカイニン活性

春先に根が吸水すると、根の先端でジベレリン・サイトカイニンが生成され、地上に向かい発芽が促される。


STEP

オーキシン活性

新芽の生長点でオーキシンが作られ、重力の助けを借りて地下部へ行く。そして、発根が促される。


STEP

ジベレリン活性

開花・結実・果実の初期肥大が進む。


STEP

オーキシン濃度が濃くなる

発根が抑えられ、新梢の伸びが止まる。


STEP

サイトカイニン活性

花芽が形成される。


STEP

アブシシン酸活性

夏の高温・乾燥でアブシシン酸が活性化し、気孔が閉じられる。水分の保持・果実糖度が上がる。


STEP

エチレン・アブシシン酸活性

夜温が下がるとエチレンが活性化し、果実の着色、落果・落葉が起こる。アブシシン酸の働きで休眠に入る。

休眠を終えて春になると、新芽が出てオーキシンが作られます。このオーキシンは重力の助けを借りるので、新芽が出ている枝が真っすぐ垂直に立っていると、オーキシンはズドンと一気に根まで到達することができます。

そうすると、新しい根が生まれてジベレリンやサイトカイニンが作られます。それらは養水分と一緒に吸い上げられて、枝葉を茂らせたり花芽を作るのに使われます。そうするとまたオーキシンが発生し…という具合に植物ホルモンの好循環が生まれ、樹全体が元気になります。

このSTEP1と2の循環を回すことが、果樹を早く大きく生長させるカギになります。

一方で、病害虫から植物を守るのはエチレン(生長抑制ホルモン)です。エチレンが活性化していると病害虫の抵抗性は高まりますが、いったんジベレリン(生長促進ホルモン)が活性化すると、エチレンレベルが低下し、病害虫の被害が増えてしまいます。

有機・無機を問わず、肥料内の窒素はジベレリンを活性化させます。そのおかげで枝葉の生長や果実肥大が起こりますが、副作用としてエチレンが不活性化し、病害虫の被害が発生します。そのため、病害虫から植物を守る農薬が必要になってしまいます。

また、作物の生長(アミノ酸への変換)に使いきれなかった窒素は、植物の体内に硝酸態窒素として蓄積されます。エチレンが活性化していない状態で硝酸態窒素が蓄積されると、硝酸態窒素を好む腐敗菌が繁殖し、その結果農作物が腐敗してしまいます。

多量の肥料を施した農作物が腐りやすいのはそのためです。

このように、植物ホルモンの観点からみても、窒素肥料の上げすぎは害をもたらすことが分かります。

野菜の仕立て方

垂直に仕立てる

先述したように、新芽が出た枝を垂直に立てることが植物ホルモンの好循環を生み出します。これを野菜栽培に応用すると、ナスやピーマン、トマトなどは支柱を立て、全ての枝を支柱に縛って垂直に立たせるとよいことが分かります。

白菜やキャベツなどの葉物、ダイズやソラマメなどわき芽が多く出る植物は、葉や茎が極力垂直になるように、ひもで挟むなどの工夫ができます。

一般的なトマト栽培などではわき芽を取ることが推奨されていますが、オーキシンの発生装置を自ら取り除くことになってしまうので、植物ホルモンの観点からすると推奨されません。

注意点としては、しっかり縛ること、合掌式のように支柱を斜めにしないこと、肥料を施さないこと(ジベレリンが活性化しすぎてツルボケするため)などが挙げられます。

1方向に伸ばす

スイカやメロン、サツマイモなどツルが出る作物も、支柱を立てて垂直方向に誘引するのがベストです。しかし、台風にも耐えられるような頑丈な柵や棚が必要になります。

その柵や棚が用意できない場合は、親ヅルと子ヅルを1方向にまとめて水平に伸ばしていく方法もあります。

植物には、側枝が広がると主枝が弱くなる性質があります。そこで、親ヅルに子ヅルを沿わせて育てることによって、各種植物ホルモンの活性を高めることができます。

一般的なスイカ栽培では、本葉が5,6枚出たころに親ヅルを摘芯し、子ヅルを数本伸ばすことが推奨されています。しかし、親ヅルの先端ではオーキシンが作られているので、摘芯すると根の成長が阻害されます。そのため、この栽培方法では摘芯は行われません。

最後に

植物ホルモンを最大限に活性化させる方法を知り、肥料、農薬、除草剤を使わずに作物を育てることによって、農家はコストを削減することができます。しかし、さらに重要なことは、地下水や大気汚染などの元凶を断つことによって、自然環境が守られるということではないでしょうか。

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