生産性のいろは
過去記事では付加価値について触れましたが、付加価値労働生産性という言葉がある通り、付加価値は、生産性を計るときにも使われます。
ここでは、以下の書籍を参考に、生産性に関して深堀りします。
生産性とは?
生産とは、人間が自然に働きかけて、人にとって有用な財やサービスを作り出すことです。
生産性とは、生産活動における投入に対する産出の割合で、生産性=産出(Output)÷投入(Input)と計算されます。つまり、投入(分母)を減らし、産出(分子)を増やすと生産性が向上します。
規模の経済と範囲の経済
何かしらの価値を生み出すためのコストには、生産量の変化に関わりなく生じる固定費(オフィスの賃料など)と、生産量とともに変化する変動費(材料費など)があります。
生産量が増えても固定費は一定であるため、生産量を増やすほど一個あたりの製造コストを下げることができます。これは、「規模の経済」と呼ばれます。
一方で、トヨタの生産システムに代表されるように、一人の作業者が複数の仕事をこなし、多品種の製品を作れるようにする方法もあります。そのような作業者は、多能工と呼ばれます。経営資源の多面的な活用で生産性を向上させる経済性は、「範囲の経済」と呼ばれます。
規模の経済が働くので、大企業が有利となり大量生産・大量消費時代が訪れました。しかし、現代では、ただ生産効率を重視するだけでなく、限られた資源を有効活用することや自然環境保全、持続可能性も考慮されなければなりません。
サービスの生産性

近年では、形のないものを提供するサービス業が増えてきましたので、サービスの生産性についても考えてみましょう。
サービスの特性
サービスの特性として、
- 無形
- サービスの提供と消費が同じタイミング
- 結果が不安定:サービス提供者と顧客、環境が関わるため常に結果が変わるし、やり直しも効かない
- 結果とプロセスのどちらも重要:結果が良くなくても、自分のために頑張ってくれたというプロセスの評価が全体の高評価につながる
などがあります。
しかし、対人サービスに従事する人は、自分の感情がどのような状態であってもそれを押し殺して、顧客が「心地よく」感じるように対応しなければならないので、疲れます。クレームなどがあるとさらにストレスが増えます。
過度なストレスやプレッシャーは、燃え尽き症候群(バーンアウト)の原因にもなるので、注意とケアが必要です。
サービスの生産性を上げる方法
- 顧客への共感能力:プロセスへの評価を高めるために必要
- 無形のものを有形にする:高級ホテルのホテルマンの身だしなみなど
- 従業員の意欲や主体的な創意工夫:これらによって仕事の成果が上がれば、その指標である生産性が高くなる
仕事に関連したポジティブで、充実した心の状態をワークエンゲージメントといい、活力、熱意、没頭の3つの側面で特徴づけられます。ワークエンゲージメントの向上は、社員の健康面にとってメリットがあるだけでなく、組織にとって生産性の観点からも重要です。
ワークエンゲージメントを向上させることは中々難しいですが、人は、「考え方や行動の範囲が広くなると、創造性や挑戦につながり、職場や社会で適応していくために必要な能力やスキルといった個人的な資源を体得することで、自尊心や自己効力感が生じる。」そうです。これがワークエンゲージメントを高める秘訣なのかもしれません。
知識労働の生産性

ピーター・F・ドラッカーが、「企業を差別化する唯一にして特有の資源は知識であり、知識を基盤とする組織が現代社会の中心的存在である」といったように、近年では、頭脳を使って仕事をする知識労働が大事になってきました。
自らの知識や知的能力を用いて業務を行うのが知識労働者なので、専門的・技術的職業従事者(研究員、建築設計技術者、ソフトウェア設計技術者、コンサルタントなど)と管理的職業従事者(中間管理職)が該当します。
中間管理職の人たちは、経営戦略に基づいて自部門の計画を策定し、それに応じて部下を指揮、調整、動機づけ、統制しなければなりません。上と下に挟まれて、大変ですね…。
さて、知識労働の生産性は測りにくいものです。なぜなら、時間などの投入量は特定しやすくても、アウトプット、すなわち何を生み出したのかを特定するのが難しいからです。部下を管理することでいくらの付加価値を生み出したのだ?と聞かれても分からないですよね…。
知識労働の生産性を上げる条件
知識労働の生産性は測ることが難しいですが、ドラッカーは、生産性を上げる6つの条件を挙げました。
- 仕事の目的を考える
- 働く者自身が生産性向上の責任を負う。自らをマネジメントする。自律性をもつ。
- 継続してイノベーションを行う
- 自ら継続して学び、人に教える
- 知識労働の生産性は、量より質の問題であることを理解する
- 知識労働者は、組織にとってのコストではなく、資本財であることを理解する。知識労働者自身が組織のために働くことを欲する
高付加価値型企業では、利益は規模と量に規定されるのではなく、ニーズと解決策を結びつける新しい組み合わせを絶えず発見することによって生まれます。
それを考え出すのが知識労働者の役割なので、知識労働者が最大限の力を発揮できる環境を整えることがますます重要となります。
知識労働者の場合、それぞれが仕事自体に高い関心をもち、満足感や帰属意識を高め、そして挑戦意欲をもって仕事に取り組んでいる時、彼らは内発的に動機づけられ、モラールを向上させる。つまり、自分の持っている能力を十分に使って行動していることを自覚でき、行動の内容を自分自身で意思決定できる時、人々は当該行動以外に何の報酬がなくても自ら進んで行動する。
信夫千佳子、生産性のマネジメント付加価値向上への進化、文眞堂、P.133、2022


