これからの組織の在り方:「ティール組織」

「ただ言われたことをこなしているだけじゃつまらない」「もっと自分のやりたい仕事がしたい」「意思決定のスピードが遅すぎる」
このような不満は、仕事につきものと思っている社会人も多いと思います。
多くの企業がピラミッド型の組織構造をしており、従業員は、組織の「歯車」の一部となって働くことを求められます。
その仕事が、たまたま本人のやりたいこと、好きなことであればまだいいですが、必ずしもそうならない場合があります。その場合、だんだんと仕事へのモチベーションは下がり、「どうしてこんなことをしているんだろう?」「仕事辞めたいな」というネガティブなことが頭によぎります。
それは、本人にとっても不幸ですし、組織にとっても不幸です。
では、どうすればよいでしょうか?何かいい解決策はあるのでしょうか?
すべての組織にすぐに適用できる処方箋はありませんが、「ティール組織」という組織の在り方が参考になります。
フレデリック・ラルーは、自身の著書「ティール組織」(原題: Reinventing Organizations)で、マネジメントの常識を覆す次世代型組織について紹介しました。
本書は、組織の進化を歴史的に振り返り、従来のヒエラルキーや管理方法に代わる新たな運営モデルを提案しています。これからの組織運営を考えるにあたって、多くの示唆を与えてくれます。
ラルーの著作の偉大な知見の一つは、支配的な階層構造が取り払われると、自己実現の階層構造が反映できる事実を見いだしたことだ。したがって、五〇〇人が働く会社は、一人ではなく五〇〇人のCEOがいるのと同じことになる。だれもが現状を突破するアイデアを思いつけばそれを実現できるという、真の意味での自主経営(セルフマネジメント)が実践され、こうした企業の多くが驚くほどの成功を収めている主な原因となっている。(ケン・ウィルバー 本書に寄せて)
二一世紀のもっとも輝かしい躍進は、テクノロジーズではなく、人間とは何か、というコンセプトを拡大することによって成し遂げられるだろう。(ジョン・ネイスビッツ)
フレデリック・ラルー, ティール組織, 英治出版, 2018
記事の目次
組織の進化:色で示すモデル
ラルーは組織の進化を五つの段階に分け、それぞれを色で表現しています。このモデルは、組織の成り立ちや機能がどのように変化してきたかを理解するのに役立ちます。なお、各組織の色分けは、発達心理学で使われる人間の意識レベルの進化と呼応しています。
衝動型組織(レッド)の特徴
- 力こそ全ての世界で、組織をつなぎとめるものは恐怖と服従
- 具体例は、ギャングやマフィア
- 組織には一人の長と多くの歩兵が存在
- 自己中心的
- 戦闘地域、内乱、破綻国家、刑務所、治安の悪いスラム街など敵対的な環境に適している
- 最も重要なのは「今」であり、計画や戦略は得意でない
- メタファー(比喩):オオカミの群れ
順応型組織(アンバー)の特徴
- 階層的なピラミッド構造で、上意下達式の指揮命令系統が採用される
- 自民族中心主義で、すべては自分が属する階級によって決まる
- 具体例は、大半の政府機関、公立学校、カトリック教会、軍隊
- 組織をつなぎとめるものは、秩序の維持と前例踏襲(変化は疎まれる)
- 中長期的な計画策定、規模の拡大が可能
- 安定しており、将来が予見できる環境に適している
- 前線の仕事は、範囲の狭いルーティンワークに近くなる
- イノベーション、批判的思考、自己表現は求められていない
- メタファー(比喩):軍隊
達成型組織(オレンジ)の特徴
- 組織の達成目標は、競争の勝利、利益の獲得、成長
- 目標達成のための経営が行われる(何をするのかを上が決め、どうするかは部門次第)
- 具体例は、グローバル企業
- 変化とイノベーションをチャンスととらえる
- 従業員には創造力と才能を発揮する自由と、目標達成のための裁量権が与えられるが、本来移譲されるべき意思決定権を上層部が離さないことも多い
- 実力主義が導入される
- 合理性に価値が置かれ、感情に流されないよう用心し、意味や目的を疑問視することはあまりない
- イノベーションの行き過ぎは、企業自らニーズを作り出し、不必要なものを買わせる持続不可能な経済を生み出した
- 競争に負けた人、疲れた人は空虚感を見出し、仕事の意味は何なのかと疑問を持ち始めることも
- メタファー(比喩):機械(人材は機械を構成する部材の一つとして慎重に配置される)
多元型組織(グリーン)の特徴
- 権限が委譲され、意思決定の大半は最前線の社員に任せられる
- 組織のリーダーに求められる能力は、問題を公平に解決する、傾聴、権限の委譲、部下のモチベーション向上と育成
- 価値観を重視する文化と心を揺さぶる存在目的によって、人々が活動している
- 対立する意見を多く集めて、最終的にはメンバーの総意による決断を目指す
- すべての意見が平等に扱われるため、悪用される恐れもある
- 株主だけでなく、従業員、顧客、地域社会、など多数のステークホルダーの視点を生かす
- 仕事の成果よりも人間関係の方が価値が高い
- 利益は大事だが、自社の社会的責任を果たすことがビジネスの中心になる
- 文化を重視する組織(サウスウエスト航空等)、ポストモダンの学術思考、非営利組織、社会事業家、地域社会活動家にみられる
- メタファー(比喩):家族(お互いに助け合う、お互いのために存在している)
進化型(ティール)パラダイムについて
レッド、アンバー、オレンジ、グリーンまでの段階は、「第一段の」意識と呼ばれています。この段階では、人々は、自分たちの世界観だけに「価値がある」、「正しい」と肯定的に考えます。
逆に、自分たち以外の人の事は、「価値がない」、「間違っている」と否定的にとらえます。この意識段階では、自分と自分以外の両者は対立するため、いつまで経っても世界から争いごとがなくなることはないでしょう。
「第一段の」意識から進化した段階の意識はティール(進化型)と称され、ティールから始まる意識段階は「第二段」の意識と呼ばれています。この段階の意識レベルでは、対立は超越されます。
意見が異なる場合、どちらかが正しいと決めつけるのではなく、決めつけないことで高次の真実にたどり着けることができます。
意識段階がティールへ移行するためには、いくつかポイントがあります。
- エゴから自らを切り離す:相手を支配したい、自分をよく見せたいといった欲求を最小化できるようになると、自分自身の深い部分にある知恵に耳を傾けることができるようになる
- 意思決定の基準を自分の内面に求める:何かを判断するとき、外的なもの(所属する階級の意思、利益、帰属意識や調和など)ではなく、自分の内面の奥底にある確信に従う
- 人生を自分の本当の姿を明らかにする旅と捉える:人生の目的を、自分らしい自分になるまで生き、才能や使命感を尊重し、人類やこの世界の役に立つことであると知る
- 欠点をみるのではなく、長所を生かそうとする:足りないものよりも、すでにそこにあるものや美しいもの、可能性に注意を向け、思いやりと感謝を優先する
- 逆境に対処する:この世の中に失敗はなく、自分や世界の真実を明らかにするための経験にすぎないと考える
- 理性の先の知恵:何かを解き明かすために、左脳と右脳をフル活用する。分析的思考、直感、夢や瞑想で語られる言葉やイメージからもヒントを得る
- 全体性(ホールネス)への努力:超越的な精神領域への解放と、私たちが自然や他者などで構成される全体の一部であるという深い感覚を得る(西田がいうところの大いなる自己)
意識段階がティールに移行した人は、エゴが抑制され、本当の自分を探す旅に忙しくなります。そのため、明確で崇高な存在目的を持った組織のみが深い関係を築きやすくなります。
ティールパラダイムでは、全体性とのつながりを意識しながらも自分らしさを失わず、深い人間関係を育てられるような組織が必要とされます。
ティール組織の三つの原則

自主経営
ティール組織では、ピラミッドのような階層的な管理構造はなくなります。そして、各メンバーが自己管理を行います。誰かが決めたことに従うのではなく、自分たちで判断し実行するので、迅速な意思決定と、何か問題が起きたときに柔軟に対応できるようになります。
このアプローチによってメンバーの創造性は最大限発揮され、責任感も増えますが、同時に仕事へのモチベーションも向上すると言われています。
全体性
従来の組織では合理性がすべてなので、個人の感情や価値観は蚊帳の外でした。ティール組織では、仕事の場においても全人格を持ち込むことが奨励されるので、メンバーが自分らしく働ける環境が提供されます。
個々のメンバーが精神的な全体性(他者とのつながり)を持つことによって、より協力的でクリエイティブな組織文化が形成されます。それは、仕事へのストレス低減と、エンゲージメントの向上にもつながります。
存在目的
従来の組織では、経営トップが定めた目標や事業目的に沿って、社員は働くことを強いられました。
ティール組織では、固定されたビジョンや目標に縛られることなく、組織自体が生命体のように進化していくという理解の元、変化する市場や環境に応じて存在目的も進化していきます。
それは、組織の外部環境の変化に対する適応力を高め、持続的な成長を実現することにつながります。
共通の文化特性
世の中には、ティール組織の概念を導入して成功を収めている企業があります。ラルーは、それらの企業に共通する文化特性を見出しました。すべてを網羅しているわけではありませんし、これがあれば組織が出来上がるというものでもありませんが、考える材料にはなり得ます。
自主経営
- お互いに親しみを感じ、自分たちの間違いが明らかになるまで同僚を信頼する
- 自由と説明責任はコインの裏と表の関係と考えられている
- すべての人は組織に関するあらゆる情報にアクセスできる権限がある
- 集団的知性の力を信じている。従って、全ての意思決定は独断でなく、他者の助言プロセスを経て行われる
- 一人一人が組織の経営者なので、問題を感じたときは、自分の役割外でも放置せず行動することが求められる
全体性
- 私たちは、お互いに深く結びついた、自然とあらゆる生命体を含む「全体」の一部だということを認識している
- 誰もが本質的には、等しく価値のある存在と認められる
- お互いの違いを認め尊重し、自分なりのやり方で貢献できるようになれば、組織のコミュニティはより強固に、そして豊かになる
- 安全で思いやりのある職場環境の構築を目指す
- 自分らしく振舞えるように、感情的にも、精神的にも安全な環境を作り出そうと努力する
- 愛、思いやり、賞賛、感謝、好奇心、楽しみ、陽気さといった気分や雰囲気が尊重される
- 職場の中で、「愛情」「奉仕」「目的」「魂」といった語彙を抵抗なく使うことができる
- 問題や失敗は、学びと成長を促す大切なものであると捉えられ、失敗を隠したり無視してはいけないとされる
- フィードバックや敬意を失わない対立は、お互いが成長するためにも歓迎される
- 意見が一致しないときは、他者を巻き込まず当事者間で解決を図る
- 問題の責任を他者になすりつけない。誰かを非難する前に、自分ならその問題や解決策にどのようにアプローチできるか考える
存在目的
- 組織には、それ自体に魂や目的があると考えられている
- 各個人が自分の使命が組織の存在目的と共鳴できるかを見極めるために、自分の心の声に耳を傾ける義務を負う
- 未来を予測し、コントロールすることは無駄であり、予測は、具体的な判断をしなければならないときにのみ行う
- その場の変化を敏感に感じ取り、対応できれば道は開かれる
- 存在目的と利益は相反せず、各個人が存在目的の達成に向けて努力すれば、利益は自ずとついてくると考えられる
ティール組織を作るには?
ティール組織では、「自主経営」「全体性」「存在目的」の3つが大切であることが分かりました。しかし、そもそも組織のトップに理解がなければ、結局何も変わりません。ティール組織を作るにあたって、どのようなことが必要になるでしょうか?
リーダーの役割
まず、組織の創業者やトップのリーダーは、ティール組織の世界観を養い、自身も精神的な発達、つまり意識レベルを上げておかなければなりません。リーダーがエゴの塊で、何よりも利益を追求し、部下をコントロールしたいと思っている限りは、ティール組織を作ることは不可能でしょう。
リーダーが果たすべき重要な役割は、
- ティール組織の運営を行うこと
- 進化型(ティール)の行動の模範を示すための空間を作って維持すること
です。そのためには、自主経営の手本を示す(リーダーといえども、助言プロセスを経て意思決定をする)、全体性の模範となる(仕事用の仮面を被らない)、存在目的に耳を傾ける(自分たちの仕事が自分たちのためだけでなく、もっと大きな目的への奉仕であることを想起させる)ことが大切です。
個人的な成功や組織の成功を追求するのではなく、意味ある目的に向かって奉仕した結果、成功するのであり、成功自体を目標にしないよう気を付けなければなりません。
それは、決して無私無欲で仕事をしろというのではなく、利己的にならず自分らしさを保ちながら、組織の存在目的達成に向かって努力をするということです。
西田のいう大いなる自己が目覚めると、組織の存在目的と自己実現の欲求がシナジー効果を発揮し、使命感と精神が研ぎ澄まされて、もっとも生産的になるとともに仕事の歓びが満ち溢れるということでしょうか。
最後に

人類史上これまで、人々の意識が次の段階に移動するたびに、新しい働き方、組織の在り方が生まれてきました。
過去記事にもありますように、神道的な考え方が生活に取り入れられ、全体への帰属意識や人々の霊性が開発されはじめてくると、人々の意識が変わります。そうすると、人々の意識の変化(進化)に合わせて、仕事においては会社組織構造も変化させていかなければなりません。
そこで、第一段の意識から「進化」したと言われるティール組織の構築に白羽の矢が立ちます。
しかし、既に存在している組織へティールを導入することは、既存の組織文化や構造に大きな変革をもたらすため、課題も伴います。多くの人々は、従来のピラミッド構造を撤廃することに対する不安を覚えるため、当然反対に会うでしょう。
仮に、組織全体が前向きになったとしても、自己管理能力を育成するためのトレーニング、全体性を尊重する文化の醸成、信頼関係の構築やオープンなコミュニケーション、人々が心から共鳴できる存在目的が求められます。
特に組織が大きくなれば大きくなるほど、その変革は困難ですね。それらを総合的に勘案すると、組織を一から作るほうが手っ取り早いかもしれません。
その場合、本記事の内容が何かの一助になりますと幸いです。

