アーユルヴェーダ:古代インド生命科学の知恵

「アーユルヴェーダ(Āyurveda)」は、サンスクリット語で生命あるいは寿命の意味を持つ「アーユス(ayus)」と、科学の意味を持つ「ヴェーダ(veda)」を合わせた言葉で、古代インドの生命科学です。約5000年の歴史を持っています。
アーユルヴェーダでは、心と体のバランスが重視され、西洋医学とはまた異なった健康増進のためのアプローチが行われます。
このページでは、以下の書籍を参考に、アーユルヴェーダの基礎知識を紹介します。
自然によって創り出されるものは、本来、完全な調和をすでに持っています。その完全な調和を創り出す力を「知性」と呼んでいるのです。
この「知性」が、完全な形で私たち生命を育み続ける時、私達は病気になることもなく、常に健康で喜びに溢れた人生を送ることができるに違いありません。
蓮村奮, ファンタスティック・アーユルヴェーダ, 知玄舎, 2002
記事の目次
物質を構成する5つのエネルギー
アーユルヴェーダでは、存在するすべてのものは、「風」、「火」、「水」、「土」、「空」の5つのエネルギーでできていると考えられています。これは、現代の量子物理学の5つのスピン(Spin0, Spin1/2, Spin1, Spin3/2, Spin2)と共通しているという見方もあります。
「風」、「火」、「水」、「土」、「空」の5つのエネルギーはそれぞれ異なった特徴を持っています。
風

キーワード:「智」、「真理」
- すべてを動かす原動力
- 優れた直観力
- 葉野菜、乾燥した豆
火

キーワード:「正義」、「達成」
- 情熱と積極性
- 曲がったことが嫌い
- 辛味、塩味、酸味
水

キーワード:「礼」、「平和」
- しなやかさと潤い
- 変化を乗り越える
- 果物、野菜
土

キーワード:「仁」、「愛」
- 安定さ、重さ
- おだやか
- 根菜類、大きく密なもの
空

キーワード:受容
- 可能性を持ったスペース
- 見返りを求めない
- 落ち着き、あくせくしない
心身を動かす3つの力「ドーシャ(Dosha)」
先ほどの5つのエネルギーは、3つの力に集約されます。「地」と「水」を合わせて「カパ(Kapha)」、「火」と「水」の一部で「ピッタ(Pitta)」、「風」と「空」を合わせて「ヴァータ(Vata)」です。
自然界では、「知性」が働きかけることによって完全な秩序と調和が作り出されますが、これら3つの力は、その力とは区別されます。私たちの誰もが3つのドーシャで構成されており、その構成パターンによって体質や個性の違いが生じます。
各々が特定のドーシャのバランスを持って生まれてきており、そのバランスが完全に一致している状態を「プラクリティ」、バランスが乱れ本当の自分を見失った状態を「ヴィクリティ」といいます。
プラクリティは「自然」という意味をもつサンスクリット語で、ヴィクリティは自然からの逸脱という意味です。アーユルヴェーダでは、プラクリティに近づくにつれて幸せは拡大し、ヴィクリティに近づくにつれて幸せは縮小していくと考えられています。
ドーシャのバランスを乱す要素
3つのドーシャは、常に関係も持ちながら変化します。例えば、甘いものを食べると、ヴァータとピッタは下がり、カパが上がります。
一般的に、ドーシャの乱れは、そのドーシャが増加し過ぎたことを意味します。ドーシャのバランスに影響を与える因子には、「環境」、「食事」、「行動」、「精神状態」があります。
環境
主に、天気、気候、季節、時間帯が挙げられます。
ヴァ-タが乱れやすい時
- 冬の寒く乾燥した日
- 雨が降って冷たい日
- 梅雨と台風の時期
- 12月~2月
- 14時~18時、2時~6時
ピッタが乱れやすい時
- カンカン照りの暑い日
- 7,8,9,11月
- 10時~14時、22時~2時
カパが乱れやすい時
- 雪や曇りでどんよりした日
- 3月~5月
- 6時~10時、18時~22時
食事
食事の量、質、味などがドーシャに影響を与えます。
ヴァ-タが乱れやすい食事
- 軽いもの(じゃがいも、古米、緑葉野菜)
- 冷たいもの
- なんでも少なく食べた場合
- 豆類
- 辛味、渋味、苦味
ピッタが乱れやすい食事
- 熱いもの
- 塩味、酸味、辛味
カパが乱れやすい食事
- 重いもの(牛肉、ヨーグルト、さつまいも)
- 冷たいもの
- 油っぽいもの
- 何でもたくさん食べた場合
- 塩、発酵物
- 山芋やとろろ芋(粘性)
- 甘味、塩味、酸味
カパの乱れやすい人が牛肉をたくさん食べた場合、カパが過剰となり、カパの異常をきたすことにつながったりします。辛い物ばかり食べていると、ヴァータとピッタが増加してドーシャのバランスが崩れます。
行動
ヴァ-タが乱れやすい行動
- 不規則な日常生活
- 激しい疲労をともなう過度な活動
- 生活環境の大きな変化(結婚、就職など)
- 煙をたくさん吸い込む、喫煙
- アルコール依存症
- 旅行や外出、出張が多い
- 連続した過剰な音刺激
- 睡眠不足
- のどを過度に使う
- 風にあたり冷える
- 生理的欲求の我慢
ピッタが乱れやすい行動
- 過剰な努力、無理、力み
- 常に何かと闘う
- 時間に追われる、焦る
- アルコール飲料の飲みすぎ
- 衣類の着過ぎ、高い室温
- 過剰に正確さ、ち密さが要求される
- 律儀になりすぎる、細かいところを気にする
- 刺激的なこと(賭博など)やモノ(暴力、犯罪などの映画、番組など)に触れる
- 過剰な日光浴、火傷
- 討論・議論で頭に血が上る
カパが乱れやすい行動
- すべてにおいて執着
- 人の意見を受け入れないもしくは盲目的に受け入れる
- 朝寝坊、昼寝
- ごろごろする
- 生活のマンネリ化
- 過食気味、甘いものの食べ過ぎ
- 家の中にモノがあふれる
- 自分の考えや気持ちを表に出さない
精神状態
ヴァ-タが乱れやすい精神状態
- 常に緊張する環境
- 不安や心配の種が尽きない
- 大きな悲しみや恐怖など
ピッタが乱れやすい精神状態
- いらいらしやすい
- いらいらや怒りを抑圧
- 知的作業に追われ、物事を批判的に思考する
- 不満足感や空虚感
カパが乱れやすい精神状態
- 体重の増加を気にする
- 自分を過小評価する
- 内向的になる
- ひとつのことに囚われる
ドーシャ悪化のサイン
3つのドーシャが悪化しているサインがあります。
ヴァ-タ悪化のサイン
- 首筋や頭が寒い、冷えを感じる
- のどが痛い
- お腹が張ってきた
- 集中できない、落ち着かない
- 紅茶など砂糖をたくさん入れないと苦くて飲めない
- やることが多く、食事や睡眠がおろそかになる
- ゆっくり本を読んだり、静かな時間を過ごす気になれない
- 夜更かしをしてしまう
ピッタ悪化のサイン
- 時計を何度も見る
- 頭の中はスケジュールでいっぱい
- なんとかしなければと勢い込んでいる
- トマトやすっぱいものを食べると胃が痛くなる
- 落ち着かず、刺激的な大変を望む
- 食事をきちんと食べたいと切望する
- 暑いとイライラする
- 塩辛いものがやめられない
カパ悪化のサイン
- 人付き合いを避け、自分の殻にこもる
- 物が捨てられず、溜まってくると安心する
- いつまでも人のことを恨む
- 酸っぱいものや甘いものを食べた時に胸が重くなる
- 食べ過ぎていないのに体重が増える
- 今の自分に満足しており、進歩を望まない
- 昼12時になっても食欲が湧かない
- 早く寝たのに翌朝起きられない、休日の朝は遅くまで寝てしまう
終わりに

まず自身の本来のドーシャのバランスを知り、日々の生活からドーシャのバランスを乱す要素を極力排除する、またはその影響を低減することが、健康的で幸せな日々を過ごすためにとても重要であることが分かります。
10タイプに大別された体質・性格の解説と、体質チェック表が「ファンタスティックアーユルヴェーダ(蓮村奮著)」P.41~49に記載されていますし、「これ一冊できちんとわかるアーユルヴェーダ(西川眞知子著)」P.28にも3つのドーシャのチェック表があります。是非ご活用ください。

