なぜ今「脱炭素」が語られているのか?

これまで脱炭素やGX(グリーン・トランスフォーメーション)に関するブログ記事をいくつか書いてきましたが、なぜ今、世界中で「脱炭素」が語られているかを明らかにしていませんでした。
【過去記事】
個人的には、植物の生長に二酸化炭素は不可欠なので、脱炭素って意味不明…とか、有機物を構成する炭素から脱するって意味不明…とか思っていたのですが、世界の科学者や経営者の認識はそうではないようです。
そこで、「脱炭素」という言葉が使われるようになった経緯を紐解いてみようと思います。
COP21とCOP28での決まりごと

なぜ脱炭素が声高に叫ばれているのか?それは、
- 「2030年までに世界全体のCO₂排出量を約半分にし、2050年までに排出量と吸収量のバランスを取る」ことが求められている
からです。
では、なぜそんなことが求められているかというと、
- 「気候変動」を回避するために、世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする
ことが、2015年に開かれた第21回気候変動枠組条約締結国会議(COP21:通称パリ協定)で決まったからです。
さらに、COP28では、化石燃料からの「脱却」という表現が使われました。
地球の気温上昇の原因になると言われている温室効果ガスには、メタン(CH₄)や一酸化二窒素(N₂O)などもありますが、二酸化炭素(CO₂)の割合が大部分を占めるので、温室効果ガス問題は、ほぼCO₂問題と言うことができるでしょう。

出典:エネ百科 きみと、未来と
ただ、人間の活動によって排出された二酸化炭素のせいで本当に地球の気温が上昇しているかどうかは、科学者の間でも意見が分かれているようです。
あくまで、現時点では、人為的に排出された二酸化炭素が地球の気温上昇に関係していると考える科学者が多数派なだけで、もしかすると将来の共通認識は変わっているかもしれません。個人的にも、地球の気温上昇は、太陽活動とか宇宙的なバランスが影響しているんじゃないの?と思ったりしていて、どちらかというと、懐疑派です。
しかし、パリ協定が締結されたように世界の共通認識は、二酸化炭素=地球の気温上昇の犯人で、”脱炭素化に逆行するような事業や経営を行う企業は、「人道に反し、不正義である」「(企業にも影響を与える)重大なリスクを理解していない」”とみなされます。(松尾雄介、脱炭素経営入門、日経BP、2021)
脱炭素を無視した経営を行う企業には融資をしないという投資家も出てきているようです。
気候変動によるリスク

なぜ、海外の人々はそこまでシビアに考えているのでしょうか?
私が思うに、海外と日本で「気候変動」に対する認識のずれがあるからのように思われます。
一昔前までは、地球の気温上昇に対して「地球温暖化(Global Warming)」という言葉が使われていましたが、最近この言葉は海外ではあまり使われなくなっており、その代わりに「気候変動(Climate Change)」や「気候危機(Climate Crisis)」という言葉が使われ始めました。
地球の気温が上昇すると、猛暑や洪水などの気象災害が増えたり、南極の氷が解けて海水面が上昇し、人が住めなくなる地域が出てくるといったことを学校で習った気がします。
たしかにそのような気象の変化に関するリスクはありますが、最近の科学の知見を取りまとめるIPCC(気候変動に関する政府間パネル)はまた違った重大リスクも指摘しています。例えば、
- 健康被害のリスク
- 移住のリスク
- 紛争・安全保障のリスク
などです。
健康被害のリスク
暑さが原因で死亡する高齢者は年々増えてきており、気温上昇が進むと、熱関連死がさらに増えることが予想されます。
また、海水の温度上昇による漁獲量の減少によって、低・中所得国の人々の貴重なたんぱく源が失われることも危惧されます。
デング熱やマラリアなど、熱帯・亜熱帯地方にしかないなかった感染症も拡大傾向にあり、シベリアの永久凍土が溶けることによって未知の病原菌が露出し、新たな感染症のリスクが増える可能性も指摘されています。
移住のリスク
海面上昇によって住むエリアが限定されることは想像しやすいですが、他にもあります。
人は、温度46度、湿度50%の環境下では6時間で死に至ると言われています。気温上昇がこのまま進めば、ペルシャ湾岸地域がそのような気候になる恐れがあるそうです。
ペルシャ湾岸地域にはイラン、イラク、サウジアラビア、カタールなどの大国があり、2億人程度の人々が暮らしています。仮に10%の人々が住めなくなって移住を迫られたとすると、その数は約2,000万人です。
ヨーロッパ諸国の人々は、シリアや北アフリカなどからの移民・難民問題で苦い経験をしています。難民の受け入れ態勢が整っていなかったことや、いったん受け入れたものの、ドイツではテロや犯罪が多発し、政策転換を迫られました。
東洋経済オンライン:ドイツが転向を迫られた「移民難民問題」の深刻
欧州を大混乱に陥らせた時の移民難民の数が年間百数十万人程度と言われていますから、その10倍以上の人が押し寄せたらどうなるのか…?ヨーロッパ諸国の人々が警戒を強めるのも無理はありません。
紛争・安全保障のリスク
移住のリスクと関連して、受け入れ先の治安が悪化する可能性があります。
「衣食足りて礼節を知る」という言葉がある通り、人は物質的な不自由さがなくなって初めて、礼儀や節度をわきまえることができます。衣・食・住の不安定化は古来から争いのもとでした。そこに信仰や価値観などの違いが合わさると、いろいろと混乱が起きることは容易に想像できます。
日本でも、イスラム教徒の土葬問題やクルド人の過積載運転など、外国人関連のニュースを目にすることが増えてきましたが、宗教や文化の違いが受入国との軋轢を生むことがあります。日本人が嫌がる危険な解体工事を請け負ってくれる外国人がいてくれるのは大変ありがたいのですが…。
このように、気候変動には様々なリスクがあるため、国をまたいだ世界規模の協力や取り決めが必要になりました。
日本の影響度は3%?

出典:日本のエネルギー 資源エネルギー庁
このグラフは、2021年の各国の温室効果ガス排出量です。
日本は、世界全体の3%のCO₂を排出しています。排出量が多い国は、中国が32%、アメリカが14%、インドが7%です。
このグラフから、経済規模の大きい国が大量の温室効果ガスを排出して温暖化を引き起こし、貧しい国や島国が相対的に大きな被害を受けることが分かります。
同時に、日本が頑張って2050年までにCO₂の排出量をゼロにしたとしても、世界的なインパクトはたった3%でしかないことも分かります。
中国の目標は、2060年までにCO₂排出量ゼロ、インドの目標は、2070年までにCO₂排出量ゼロとのことなので、2050年までに排出量と吸収量のバランスを取るのは無理じゃね!?感があります。
個人や企業として、無理をせずできるだけのことはやりながら、低コストで温室効果ガスを吸収する技術が開発されるのを待つ感じでしょうか…。
成長した木を切って燃料などに利活用し、植林する量を増やせばCO₂吸収量も増えますが、山も誰かの資産なので勝手にやることはできず、なかなか難しいところです。


