ネイチャーポジティブとは?

ネイチャーポジティブとは、”2030年までに自然の損失を止めて、プラスに転じる”ことです(藤田香、ESGとTNFD時代のイチから分かる 生物多様性・ネイチャーポジティブ経営、日経BP、2023)。日本語では、「自然再興」という漢字があてられています。

生き物と、その生き物を取り巻く森や土、水などの自然環境を合わせて「生態系」といいますが、このような生態系は、私たち人間に、水や食料の供給、洪水の緩和、景観保全など、「生態系サービス(生態系の恵み)」を提供してくれています。

生態系サービスは、生物の多様性が豊かであるほど向上する場合が多いようですが、人間の活動によって生態系が破壊され、天然資源の減少や土壌の劣化、気候変動など様々な問題が生じています。

そのような背景から、今ある自然環境をただ守るのではなく、もっと積極的に人間が関わって回復、再興していかなければならないということで、「ネイチャーポジティブ」という言葉が使われるようになりました。

経営課題としてのネイチャーポジティブ

ネイチャーポジティブは、脱炭素と同じく今や重要な経営課題になっています。

農家の経営が、田畑や雨、土壌微生物、受粉を担う昆虫などの自然や生物多様性に大きく依存するのはもちろんですが、商社も供給できる資源がなくなるということで、生物多様性の損失を重要視しています。

森林・林業博物館のHPによると、1990~2020年の30年間の間に、世界で減少した森林の面積は、年平均で592万haでした。1分間に東京ドーム2.4個分の面積に相当する森林が破壊されていることになります。

また、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストによると、46,300種以上の種が絶滅の危惧にあり、これは全評価種の28%以上に相当します。

特に「食品・農業」、「エネルギー」、「建設」の3分野の企業活動が自然に及ぼす影響が大きく、全体の70%を占めるそうです。これら3分野の企業は責任ある行動が求められるでしょう。

企業がネイチャーポジティブに取り組む理由としては、単に資源の枯渇だけでなく、他にも以下のような理由があります。

  • 44兆ドルの経済的損失と年間10兆ドルの機会
  • 自然による財務影響の開示が求められる
  • 生物多様性や自然への投融資が活発化

世界経済フォーラムの報告書によると、自然の損失によって約44兆ドルの事業が崩壊の危機にあります。ほんまかいなと思いますが、自然の損失が経済的損失につながっていることが示されました。

一方で、ネイチャーポジティブに取り組むことによって、新たなビジネスチャンスや雇用が生み出され、その経済規模は年間10兆ドル程度になるという試算もあります。これは朗報ですね。

金融業界は、企業に対して、自然にどれくらい依存し、影響を与えているかなどに関する情報開示を求めるようになりました。それは、生物多様性や自然への投融資を活発化させることにつながりました。

生物多様性の損失を減らし、回復させる方法

ネイチャーポジティブの具体的な方法は何なのか?地球規模生物多様性第5版には、以下の図が書かれています。

横軸が時間軸、縦軸は生物多様性を示しています。何もせずこのまま時が経てば、黒い線のように生物の多様性は、右肩下がりに減っていきます。しかし、以下のような対策を加速させることによって、生物多様性の損失を軽減し、再興させていくことができるとされます。

地球規模生物多様性第5版に記載されている項目をまとめます。

生態系の保全と再生の強化(緑色)

  • 保護地域(国立公園など)やOECM(Othe Effective area based Conservation Measures: 国が設置する保護区域以外の生物多様性に貢献する地域)の拡大
  • 劣化した生息地の再生
  • 淡水の水質改善と生息地の保護
  • 海洋および沿岸の生態系保護
  • 農業景観・都市景観の改善

気候変動の緩和(水色)

  • 脱炭素の取り組み
  • グリーンインフラの展開
  • 自然を基盤とする解決策(NbS: Nature based Solutions)の適用
  • 炭素貯留・隔離
  • 生物多様性への悪影響を避けながら再生可能エネルギーの推進

汚染、侵略的外来種、乱獲に対する行動(青)

  • 侵略的外来種の対処
  • 水質汚染・海洋汚染の対処
  • 海洋や陸水生態系における生物多様性の持続不可能な利用への措置
  • 持続可能な漁業

食品の持続可能な生産(オレンジ)

  • 持続可能な水産養殖業と海洋利用
  • アグロエコロジーや他の革新的なアプローチ
  • 生物多様性への悪影響を最小限にとどめながら生産性を向上させる持続可能な農業

消費と廃棄物の削減(赤)

  • 植物主体で肉と魚の消費を抑え、食品の多様性をより重視した健康的な食生活
  • 食品廃棄物の大幅な削減
  • 林業、エネルギーおよび新鮮な水の供給といった生物多様性に影響を与える有形財やサービスの消費抑制
  • サーキュラーエコノミーの実践

企業事例

ネスレ

サントリー

大成建設

30by30

「30by30」という言葉は、環境保護や生物多様性の保全に関する国際的な目標として注目されています。この目標は、2020年に開催されたCOP15(国連生物多様性条約締約国会議)で合意されたもので、「30 by 30」は、2030年までに地球の30%を保護区として保護するという目標を指します。

概要

「30by30」は、以下のような背景と目的を持つ重要な環境目標です。

  • 目的: 生物多様性の損失を食い止め、地球上の生態系を保護・回復する
  • 目標: 2030年までに、世界の陸地と海域の30%を保護することで、絶滅の危機にある動植物の種を保護し、持続可能な環境を維持する
  • 方法: 新たな保護地域の設置、既存の保護区の強化、持続可能な資源の管理

具体例

  1. 国立公園や自然保護区の設置
    • 例: アメリカのヨセミテ国立公園や、オーストラリアのグレートバリアリーフなどの大規模な保護地域が、30by30の目標に向けた一環として重要な役割を果たします。
    • これらの地域は、生態系を保護し、動植物が自然な状態で生きることができる場所として確保されています。
  2. 海洋保護区の拡大
    • 例: チャレンジャー海峡や、南極海のような重要な海洋地域においても、30by30の枠組みに基づいて保護区域を増加させる取り組みが行われています。これにより、海洋の生物多様性が維持され、漁業や観光の持続可能性が保たれます。
  3. 持続可能な農業や森林管理
    • 30by30の目標には、農業や森林管理が持続可能な方法で行われることも含まれます。具体的には、持続可能な森林管理プログラムや、農地の生態的回復が進められています。

目指す結果

  • 絶滅危惧種の保護
  • 気候変動への対策として、生態系の機能を保全
  • 地域社会や先住民の生活と調和した自然環境の維持
  • 地球全体の生態系サービス(例えば、浄水や土壌の肥沃度など)の保全

30by30の目標は、ただ単に地球の30%を保護するだけでなく、その保護が生物多様性の回復や持続可能な利用に繋がることを重視しています。

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です