持続可能な農業の道を探るシリーズPart 2:工業的農業が自然界にもたらす影響

工業的農業は、持続不可能であるだけでなく、現在と将来の両方に負の影響をもたらします。すでに人間への被害だけでなく、生態系に修復不可能なほどの損傷をもたらしてしまっています。
記事の目次
工業的農業が自然界に与える影響

土壌劣化
工業的農業が行われている土地では、年間1haあたり10~100tの土壌が失われています。
最適条件における土壌の生成速度は年間1haあたり1tといわれているので、これまで数千年の年月を経て蓄積されてきた土壌資源を、人類は急速に浪費していることを意味します。
耕転と単作によって長期間裸地にされた農地は、風雨によって浸食され、土壌の肥沃度が低下します。
灌漑をしすぎることによって塩類が集積すると、農業に適した土地ではなくなってしまいます。
化学肥料を使用することによって一時的に失われた養分を補充することはできますが、土壌の健全性や肥沃度を回復させる根本的な解決策とはなり得ません。
水の浪費と水系への悪影響
世界中の水利用の70%以上を農業が占めており、そのほとんどの水は灌漑に使われています。
灌漑によって収量の著しい増加を図ることができますが、灌漑水がすべて作物の生長に使われることはなく、半分以上は蒸発するか畑から流出します。要するに無駄遣いです。
世界中の多くの地域では、淡水が徐々に不足してきているのにもかかわらず…。
人類の肉食の増加傾向も、農業における水利用増加の原因となります。家畜用の穀物を栽培するための水が必要であるからです。
また、家畜は大量の水を飲みます。ブタ一頭は一日に約30ℓの水を飲みます。1㎏の動物性タンパクを生産するのに必要な水量は、1㎏の植物性タンパクの生産に必要な水量の100倍です。
灌漑用水を確保するために巨大なダムを建設すると、周辺の河川や生態系を破壊してしまいます。
湿地や氾濫原生態系は汚染物質の浄化・吸収機能を担っていましたが、その機能も低下し、魚類や水鳥の生息地としても役立たなくなってきました。
環境汚染
農業における環境汚染物質は、1.農薬(除草剤や殺虫剤)などの化学物質、2.肥料の成分、3.塩分と土砂堆積物などが挙げられます。
空中散布される農薬は、大気や水の流れによって標的とした畑以外の範囲に簡単に拡散し、残留します。
農薬には生殖能力の低下や発がん性などが指摘されていますが、農薬に汚染された魚を猛禽類が食べることによって、水陸両方の生態系に悪影響を及ぼす可能性があります。
水を介しても、農薬は体内に取り込まれてしまいます。
肥料成分の窒素やリンが農地から流出することによって、水圏環境の藻類が異常発生し、富栄養化と多様な生物の死の原因となります。
また、地下水汚染の元凶にもなり、飲料水用に掘った井戸も安全基準を超えた硝酸濃度により使えなくなるところが増えてきました。
塩分と土砂堆積物は、多くの地域で水質汚濁の原因となり、水産業を危機に陥れるほか、湿地帯を鳥類が生息するのに不敵な環境へと悪化させています。
自然生息地の破壊

農業は自然植生(昆虫、鳥類、哺乳類、その他の動物の原種の生息域)を人間の手によって改変する事から始まります。
農地を自然植生に近づけることは可能ですが、工業的農業が行われている広大な農地は、野生生物の生息地として価値のないものになっています。
殺虫剤を使うことによってセイヨウミツバチや野生バチのような受粉媒介者、害虫の天敵が住めない環境になります。
しかし、より懸念されるのは、自然生態系がこれまで人類に与えてきた恩恵(水質浄化、洪水緩和、地下水補充、浸食防止など)が今後受けられなくなってしまうことです。
外部投入資源の依存
工業的農業は、水、肥料、農薬、種子(ハイブリッド種)、農業機械、灌漑ポンプ、エネルギーなどを農地の外部から調達することによって高収量を達成してきました。
中でも、多くの投入資源の原料となる天然資源は、量に限りがあり再生不可能であるため、持続可能な農業を営むことはできません。
リン酸肥料は、リンを高濃度に含む鉱石から作られますが、その採鉱鉱床は今後40年以内に掘りつくされてしまうとも言われています。
温室効果ガスの発生と炭素貯留の損失
農業は、主要な温室効果ガスの発生源です。工業的農業に必要な物資の生産と輸送、大型農業機械の燃料に化石燃料が使われています。
農業者と消費者の物理的距離が遠くなれば遠くなるほど、農作物の輸送に化石燃料が必要になります。
また、窒素肥料を過剰に投入してしまうと、二酸化炭素の約300倍温室効果がある亜酸化窒素が発生してしまいます。
炭素は、工業的農業が営なわれるまでは、植生バイオマス、土壌の微生物バイオマス、腐植、有機態または無機態の炭素として自然界に貯留されていました。
しかし、工業的農業によって熱帯雨林などの植生が破壊されたり土壌が劣化したりすると、炭素を固定する生物圏の能力が減少し、大気中に放出されてしまいます。
その他
これらの問題のほかにも、遺伝的多様性の損失、農業生産における地域主権の損失、脆弱性とリスクの増加、世界的な不平等などの問題が考えられます。
私たちが保有する土壌資源や水資源を将来のために保全したり、生態系に配慮した環境負荷ができるだけ少ない農業を営むためには、現代の慣行農法を大きく変革する必要があります。

