持続可能な農業の道を探るシリーズPart1:工業的農業の問題点

今日では、スーパーマーケットに行くと、棚には豊富な食料が取り揃えられています。本来トマトは夏が旬ですが、冬場でも買うことができます。町にはたくさんのコンビニや飲食店があり、お金さえあれば食べるものには困らない時代になりました。

ところが、この便利な世の中がとある犠牲によって成り立っているとしたら、どう思われるでしょうか…?

現代の農業では、「収量」と「収益」を最大化するために、様々な技術革新や生産体系の合理化が行われてきました。生産効率を上げるために、工場における大量生産のノウハウが農業にも導入されました。

そのような農業は、昭和初期まで主流だった「有機農業」と区別するために、「慣行農業」と呼ばれたりします。また、アグロエコロジー持続可能なフードシステムの生態学(スティーヴン・グリースマン著)では、工業的農業とも呼ばれています。

工業的農業によって、たしかに私たちの生活は豊かで便利になりましたが、そこで使われる技術は将来の生産性を犠牲にする傾向にあります。

工業的農業ではどんな技術が使われ、自然界にどんな影響を及ぼすのでしょうか?また、今後はどういう方向にシフトすればよいでしょうか?

持続可能な食と農のあり方を考える科学・実践・運動の新しいアプローチ『アグロエコロジー(Agroecology)』待望の日本語訳

アグロエコロジーは、自然の力をさらに高める有機農業や自然農法の「実践」でもある。不耕起栽培やカバークロップ、緑肥など、伝統的な農業の知恵や技術を生態学の視点から再評価し、広げていくことが期待されている。

スティーヴン・グリースマン, アグロエコロジー 持続可能なフードシステムの生態学, 農文協, 2023

工業的農業の7つの基本技術

集約的耕転

土壌の排水性や通気性を高めたり、雑草の取り除きや種まきを容易にするために、工業型農業では大型機械を用いて頻繁に土壌を耕転します。

年5、6回も土壌は耕転されるので、土壌は長期にわたり、裸地状態にさらされてしまいます。

頻繁な耕起の問題点は、1.土壌有機物の分解が促進され土地が痩せていくこと、2.大型機械を使うことにより表面はふかふかになっても土深くの層は締め固まってしまうこと、が挙げられます。

その結果、何度も耕起をしなければならない悪循環に陥ってしまいます。

単作(モノカルチャー)

単作とは、一つの畑に単一(一種類)の作物を大規模に育てることを意味します。かつて農業は、いろいろな作物を栽培して家畜を育てることを意味していましたが、いまではすっかり専門化してしまいました。

ジャガイモ農家であればジャガイモばかり栽培し、キャベツ農家であれば、キャベツばかり栽培するという具合にです。

単作をすると、耕作、種まき、雑草管理、収穫などの農作業が大型機械を用いて効率的に行うことができ、労働力の投入は最小限に抑えることができます。

しかし、その作物に特有の病害虫が発生した場合、壊滅的な打撃を受けるリスクがあります。そのリスクを回避するために、どうしても農薬に頼らざるを得なくなります。

化学肥料の使用

化学肥料が20世紀後半における劇的な増収に貢献したことに疑いの余地はないでしょう。化学肥料は、石油、大気中の窒素やリンを含む鉱石を原材料として、比較的安価なコストで大量生産することができます。

化学肥料を投入することによって、植物に必要な養分を簡単に供給できるので、農家さんもすっかり化学肥料に頼ってしまうようになりました。

しかし、投入したすべての化学肥料が植物の生長に使われるわけではありません。使われなかった化学肥料の無機成分は、簡単に土壌から溶脱し、地下水をたどって渓流、湖、河川などに流れ込みます。

その結果、富栄養化(酸欠をもたらす植物や藻類の異常な増殖)が発生します。また、飲料用として使っていた地下水を汚染し、健康被害をもたらすこともあります。

窒素肥料を投入しすぎると、使われなかった成分は最終的に亜酸化窒素(N2O)となり大気中に放出されます。

亜酸化窒素は二酸化炭素の約300倍の温室効果があり、オゾン層も破壊するため地球環境に大きな負の影響をもたらします。

そして、化学肥料の価格は石油の価格と連動するため、石油価格が上昇すると農業にかかるコストも上昇し、農業経営をより一層苦しめます。農業の持続可能性に大きな影を落とします。

灌漑

降雨量の多い日本では、それほど大規模な灌漑設備(水撒き)を見かけることはあまりないと思います。

世界的に見ても、灌漑されている農地は全体の20%ですが、灌漑農地が世界の食料の40%を生産していますので、私たちが食べる外国産の農作物の約半分は、灌漑が使われているのかもしれません。

灌漑の問題点は、まず、降雨による地下水の補充よりも多くの地下水をくみ上げてしまうことです。その結果、地盤沈下や、海に近いエリアでは海水の侵入をもたらしてしまいます。

地下水の過剰なくみ上げは、次世代から水を借りているとも言えます。

灌漑水を河川や湖から引く場合は野生動物と水の奪い合いをすることにもつながりますし、化学肥料の溶脱を助長することにもつながります。

化学的防除(農薬の使用)

農薬(殺虫剤、殺菌剤、除草剤を含む)は、栽培している植物にとって有害な病害虫の数を減らすことができますが、同時に天敵も殺してしまいます。その後、有害な病害虫の数が急速に回復し、農薬散布前よりも高密度になってしまうことさえあります。

その結果、より多くの農薬を散布せざるを得なくなり、悪循環が起こります。

また、病害虫が農薬抵抗性を獲得してしまうと、より強い農薬を使う必要があり、悪循環に拍車がかかります。

農薬は、病害虫だけでなく人体にも有害で、毎年数百万人が農薬による中毒症状を経験しており、発がん率の上昇、生殖や発達障害との関連も示唆されています。

地表や地下水に流れた残留農薬は、しばしば数十年にわたって動植物に悪影響を及ぼすとも言われています。

遺伝子操作

人類は古くから植物の特殊な特性(寒さに強いイネ、甘いスイカなど)を選抜し続けてきました。こうした野生種の改変は農耕の始まりの一つではありますが、近年の遺伝子操作や品種改良技術は長足の進歩を遂げています。

2つあるいはそれ以上の植物の形質を融合したハイブリッド種子(一代雑種・F1)は、非ハイブリッド種子と比べて高い収量を上げることができます。

一方で、高い収量を上げるために化学肥料の多用がセットであること、耐病性が低く病害虫から守るために農薬が必要になることなどの欠点もあります。

ハイブリッド植物は両親と同じ遺伝子を持つ種子を生産することができず、毎回種子を種苗会社から購入しなければなりません。

耐塩性を持たせることや作物の栄養価を上げるなど、遺伝子組み換え作物には多くの期待があるのも事実ですが、同時に多くの懸案事項も存在します。

遺伝子組み換え作物が野生種や他の栽培種に与える影響、食物連鎖全体に与える影響などは長期のスパンで見ないと分かりません。

除草剤耐性を持つように遺伝子操作された作物自体は、たしかに除草剤を使っても育ちますが、だからといって除草剤を使いすぎると今度は雑草が耐性を持ち(スーパー雑草)、除草剤の量が増えた結果、環境汚染が進むことがあります。

家畜の工業的飼育

農業と同様畜産業も工業化しており、安価に購入できるブタ、肉牛、ニワトリなどは身動きが取れないほど高密度で飼育されています。ストレスでニワトリがつつき合わないように、くちばしが切り取られたりしています。

このように育てられる家畜は、工業的農業で栽培される作物のように病気にかかりやすいため、ワクチンや抗生物質など化学物質の投入が必要になり、家畜の健康はもちろんのこと、それを食べる人体への影響も懸念されています。

家畜の飼育が農業と切り離されてしまうと、家畜の糞尿廃棄物が問題になります。通常は大規模なため池によって処理されるので、硝酸による地下水の汚染、アンモニアガスによる異臭などが問題になります。

窒素は、植物にとって必須の栄養分であり、家畜糞尿は貴重な窒素肥料になりますが、多すぎるとメリットを上回るデメリットが発生してしまいます。

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