健康な土壌を作るための第一歩:たい肥の作り方・使い方について知る

家庭菜園をはじめ、農業に関する本には「たい肥」という言葉がよく出てきます。たい肥には、牛ふんたい肥、鶏ふんたい肥、雑草たい肥など、原材料によって名称が異なる様々なたい肥があります。
たい肥とは何なのか?どうやって作るのか?そもそもたい肥は必要なのか?そういった疑問を持つ方も多いと思います。
私の理解では、たい肥は必要です。ただし、きちんと理解したうえで使う必要がありますので、ここに情報を整理します。
”ふかふか”の土をキープするには、有機物の補給が欠かせないわけです。土に有機物を補給するにはさまざまな方法がありますが、古くから使われてきたものが堆肥です。
本書で堆肥や緑肥といった有機物を効果的に使うためのノウハウを理解し、正しく計画的に使って、ワンランク上の家庭園芸を楽しみましょう。
後藤逸男, イラスト 基本からわかる堆肥の作り方・使い方, 家の光協会, 2012作物生産においてもっとも重要なことは、適正に製造された堆厩肥の定期的な供給であり、地力の維持が作物の健康の基礎であることが、この研究の過程でまもなく明らかになったのである。
アルバート・ハワード, 農業聖典, 日本有機農業研究会, 2003
記事の目次
たい肥とは何か?
たい肥とは、落ち葉や収穫後の作物残渣(葉や茎など、食用にならない部分)、鶏ふんや牛ふんなど、様々な有機物を原材料とし、微生物によって発酵させた、土質改良資材のひとつです。
有機物の循環

自然界では、有機物が循環しています。最初の有機物は、植物が光合成することによって作られます。
根から吸い上げた水と、大気中の二酸化炭素を原料に炭水化物を生成し、そこに窒素などの物質が合わさって、より複雑な分子構造を持つたんぱく質等が生成されます。
その植物を動物が摂取し、そのフンはやがて土に還ります。枯れて落ちた葉っぱや枝、動物の死がいもやがて土に還ります。
それらを微生物が分解し、また植物の生長に利用できる物質に変わります。このような循環が、何千年、何万年という単位で行われてきました。
一方で、農業は人為的にこれらの循環を遮ってしまいます。収穫物は田畑の外に持ち出され、雑草や作物残渣も取り除いてしまいます。
田畑に循環する有機物の量が農業によって減ってしまいますので、持続可能な農業を営むためには有機物を供給する必要があります。そこで昔から使われてきたのがたい肥でした。
腐植
先ほど微生物が有機物を分解することについて触れましたが、その結果土の中で何が出来上がるかというと、それは腐植です。
腐植とは、部分的に酸化された植物と動物の残渣と、こうした廃棄物を分解する菌類やバクテリアによって合成された物質との複合物質を指します。
この腐植の量が、植物の健全な生長や栄養価を左右します。
森は、自らが必要な腐植よりも多くの腐植を落ち葉によって生産しているため腐植の収支はプラスとなりますが、マメ科を除き他の作物は土中の腐植をどんどん消耗していきます。
そのため土地が瘦せていきます。地力が落ちるとも言います。
しかし、たい肥が正しく作られると、それは植物の栄養源になるとともに、田畑に腐植物質を供給することができるので、地力の低下を抑えることができます。
ここで1点注意しておくことは、厩肥(牛ふんや鶏ふんなどを発酵させた肥料)という有機物は最終的に微生物に分解され、無機化されてしまい、腐植として残らないことです。
したがって、腐植物質の供給という観点からすると、たい肥材料は植物質の有機物を使うことが望ましいとされます。
たい肥は、よい土づくりのために必要不可欠であることが分かります。


たい肥の効果
たい肥の具体的な効果は、以下の3つが挙げられます。
- 土の物理性の改善
- 土の化学性の改善
- 土の生物性の改善
土の物理性の改善
たい肥は土をふかふかにさせます。たい肥が微生物によって分解される過程で土中の団粒構造が発達し、通気性、水はけ、保水性が改善されます。
植物の根のはりもよくなり、水分や栄養分の吸収率が向上した結果、作物の品質も向上します。
土の化学性の改善
たい肥を用いると、窒素、リン酸、カリのほか、様々な微量元素を供給できるため、肥効が上がり、収穫量の増加が期待できます。
作物は炭水化物と窒素を合成してたんぱく質を作りますが、化学肥料を用いると急に窒素の効果が現れるため、炭水化物が減少し、食味が下がります。
その点たい肥を用いると、徐々に分解され徐々に窒素が土中に供給されるため、窒素が効きすぎるということがなくなります。
土の生物性の改善
たい肥は土中の微生物のエサになるため、土中の微生物や小動物を増やします。
土中の微生物が多様化することによって、連作障害など作物に害を与える微生物の増加を抑制し、生産の安定につながります。
たい肥の作り方

コンポスト式
コンポスト容器や専用のコンポストバッグを使う方法です。日当たりのよい場所に容器を置き、土と生ごみを交互に入れていきます。
発酵のスピードが遅いため、生ごみの水は切って入れることがポイントです。一か月に一回切り返しをします。
手軽ですが、製造できるたい肥の量はそれ程多くありません。
平積み+切り返し
スペースがあり多くのたい肥を製造する場合は、たい肥材料を平積みにし、水分量を50~60%に調整しながら定期的に切り返す方法をとります。
切り返しは、空気量や水分量を均一にし、発酵の進み具合を整えるために有効とされていますが、製造するたい肥量が増えるにつれて、労力が増えます。
バッグ+有孔パイプ
現在、多くのたい肥は微生物の嫌気性発酵による腐敗を防ぐために切り返しが行われていますが、切り返し作業を行うことによって真菌の菌糸が切断され、たい肥はバクテリア優位の環境になってしまいます。
それを防ぐためには、バッグにたい肥となる植物質の有機物を入れ、空気を送り込む孔の空いたパイプを挿し込む方法があります。
ニューメキシコ州立大学のデビッド・ジョンソン博士が考案したこの方法は、切り返しが不要なことから動力がない地域でもたい肥を製造でき、バクテリアよりも真菌優位になる環境から腐敗することなく良質なたい肥を製造できます。
地中たい肥製造法
上記に記載したたい肥の製造方法は、切り返しに必要な労力がかかる、切り返しが不要でもバッグなど資材が必要となることが難点だなと思っていました。
そこで、もっと楽に、費用もかけずたい肥を作る方法はないかと探していたところ、地中たい肥製造法というものを思っていましたその方法は、楢崎皐月氏の静電三法に詳しく書かれています。
方法はいたって簡単で、はじめに80㎝程の深さで穴を掘り(幅はたい肥材料の量次第)、たい肥材料を踏み込みながら30㎝入れ散水し、土を10~15㎝程盛ります。
それを3回繰り返し、最後は30㎝ほど覆土するというものです。
こんもりと山が出来上がりますが、たい肥材料が微生物によって分解されていくにしたがってかさが減少し、最終的には地表と同じくらいの高さになります。
この方法は、切り返し作業も特別な資材も必要なくたい肥を製造することができます。
3段目の踏み込み覆土をする前に乳酸菌をまくと、腐敗せず発酵し、良質なたい肥が約3か月後に出来上がります。

最後に
たい肥は土質の改良、栄養素の補給、土質を活性化させるために必要な資材です。原材料は、刈草や落ち葉、もみ殻や米ぬか、生ごみ。厩肥を使います。
たい肥の作り方はいくつかありますが、地中たい肥製造法がもっとも労力が少なく済みます。たい肥を作る際、米のとぎ汁を使って乳酸菌を培養しておくと、失敗せずに良いたい肥を作ることができます。
たい肥を使うことによって良質な農作物を収穫することができるほか、資源の循環や二酸化炭素排出を抑制するなど、地球環境保全にも貢献することができます。


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