いい土壌の条件とは?土壌を活性化する方法

身土不二(しんどふに)という仏教用語があります。私たちの体「身」と、周囲の環境「土」は切り離せないという意味です。
当時の人々が周囲の環境を空気の「空」や「気」ではなく、「土」と表現したのは、私たちの祖先が農耕民族だからでしょうか?
近年は、土を使わず液肥の中で植物を育てる水耕栽培という方法もレタスやトマト栽培に使われていますが、基本的に農業と土は切り離せないと思います。
いいものを作るためには、そのための土台をまず整えなければいけません。
「土は生きている」と言われているように、土壌は多くの特徴的な生物群を含み、植物生産、有機物分解、水分保全などさまざまな重要な機能を発揮している。
本書は、このような「生きている土壌」の「豊かさ」の秘密を探り、それを分かりやすく説明したものである。熊澤喜久雄「日本語版に寄せて」より
エアハルト・ヘニッヒ, 生きている土壌 腐植と熟土の生成と働き, 日本有機農業研究会, 2009
記事の目次
オーガニック農法における総合的な処方箋
大気中の窒素(N)を効率的に利用すること
動植物を問わず、生きた細胞は窒素を含むタンパク質からできているため、窒素は生命活動に不可欠な存在です。ビタミン、酵素、植物の葉にある葉緑素にも当然組み込まれています。
現在主流の慣行栽培では、窒素の供給は化学肥料によって行われています。それは、化学工業的にアンモニア(NH3)を合成(ハーバー・ボッシュ法)するもので、非常に大きなエネルギーが必要となります。
例えば1tの石灰窒素を製造する場合、1.1tの重油と1,100kwhの電力を必要とするため、環境に大きな負荷をかけてしまいます。
石灰窒素のほか、硫安、硝安石灰、尿素なども化学的に作られた肥料「化成肥料」です。
一方、窒素は大気中に大量に含まれているため(大気の約78%)、その窒素を効率的に利用することが植物にとっても、環境にとっても重要です。
植物はその大気中の窒素を直接利用できませんが、2つのグループの細菌は、大気中の窒素を固定し、植物が利用できる形で供給することができます。
リゾビウム属の根瘤バクテリアとアゾトバクターです。
根瘤バクテリア(根粒菌)

マメ科植物の根と共生関係を持つので、根粒菌として知られています。エダマメやインゲン、緑肥でおなじみのクローバーなどマメ科植物が生長している間、根粒菌は絶えず窒素化合物を土中に放出しています。
コンパニオンプランツとしてマメ科+イネ科、マメ科+アブラナ科などが推奨されているのはそのためです。
根粒菌が活動するにはいくつか条件があり、一つはpHを6.0以下に下げないことと、ビタミンB12を供給することです。
ビタミンB12は乳酸菌によって作られますが、そのためには微量でもコバルトが必要になります。
昔の人は、その微量元素を畑に与えるために玄武岩などの岩石粉末を用いていました。
アゾトバクター

こちらは根粒菌のように共生関係は必要とせず、土壌内に独立して生きていますが、自然界ではしばしば藻類と一緒に生活しています。
いくつかの藻類は、たい肥中の放線菌の菌糸の中を好むので、たい肥はアゾトバクターにも良い影響を与えます。
アゾトバクターは、微細な根毛や細かい植物残渣の中で生活しているので、あまり土をかき乱さないことがアゾトバクターの生存にとって重要になります。
化学薬品による土壌消毒もアゾトバクターを死滅させてしまいます。
厩肥の窒素を利用すること

厩肥とは、家畜の糞尿と藁や落ち葉などを混合し、腐熟させた有機質肥料です。家畜と聞いて思い浮かべるのは、牛、豚、鶏ですが、糞の成分は若干異なっています。
炭化水素(C)と窒素(N)の比を表す指標にC/N比というものがありますが、牛ふん、豚ふん、鶏ふんのC/N比はそれぞれ、15~20、10~15、6~10です。
従って、一番窒素分が多いのは、鶏ふんです。
尿には、可溶性のあらゆる形態の窒素とミネラルがバランスよく含まれています。馬尿を液肥としてナスに葉面散布する方法は、江戸時代にも知られていました。
厩肥は腐熟させる必要があります。もし、家畜糞尿をそのまま田畑に撒いてしまうと、大変なことが起きてしまいます。それは、腐敗です。
腐敗と腐熟
腐敗
腐敗は、酸素がない状態、つまり嫌気的状態のときに起こります。家畜糞尿のような有機物が腐敗すると、硫化水素やアンモニアなど、嫌な臭いのガスが発散します。
においはありませんが、温室効果ガスの一種であるメタンも揮発します。
腐敗ガスは自然界の典型的な誘引物質であるため、ハエや血を吸う昆虫を惹きつけ、産卵を促します。その結果、作物も食害されてしまいます。
腐熟
腐熟は、酸素が十分にある状態、つまり好気的状態のときに起こります。「腐熟」と「発酵」はしばしば混同されますが、発酵は酸素の出入りがない状態で起こります。
腐熟では、二酸化炭素と、放線菌が作り出す森の土のようないい匂いが放出されます。
有機物が分解されると腐敗の時と同様アンモニアが発生しますが、腐熟過程では、アンモニアは菌糸の中で固定されます。
その後、有機態の窒素となり植物に吸収され、植物の生長に利用されます。
腐熟の過程で、リン酸の結晶は微生物によって無機態の結合から植物に吸収されやすい有機態に変化するため、家畜糞尿にリン鉱石を混ぜて腐熟させると、さらによい肥料になります。
土壌の肥沃度を維持すること

土壌を肥沃な状態に維持するためには、まず十分な腐植の養成が必要になります。そのためには、以下の方法があります。
- 厩肥、畜舎液肥などを好気的な状態で熟成させること
- マメ科植物を栽培すること
- 緑肥栽培を増やすこと
- 土を裸にしないこと(緑で覆うこと)
- 玄武岩の粉末を施すこと
- 土中の根圏を大切にするために、耕しすぎないこと
- 団粒構造を発達させ、孔隙量を高めること
最後に
いい状態の土壌では、アゾトバクターのような独立して生きている窒素固定微生物は、年間1ヘクタールあたり、20~50㎏の窒素を固定することができます。
マメ科植物は1ヘクタール当たり300~400㎏の窒素を固定できます。
これらの数字は大気中から直接固定された窒素の量なので、実際は腐植中にある有機態の窒素などもっと多くの窒素が利用できます。
窒素肥料をまくよりも、動植物を通じて健康な土壌を作る方が、経済的にも環境的にもメリットがあります。


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